山椒の小部屋

JAPANESE PEPPER ROOM

vol.11

山椒の野生種について②

山椒の野生種として前回フユザンショウ(Zanthoxylum. alatum)をご紹介させていただきました。今回はイヌザンショウ(Fagara mantchurica Honda もしくはZ.schinifolium)についてご説明させていただきます。イヌザンショウは埼玉県小川町にも自生しています。サンショウと良く似ていますが、果実の味と香りが大きく異なります。名前の由来は、サンショウと比べて人間にとって役に立たないことから、名前の頭にイヌを付けたといわれています。


■イヌザンショウ(Fagara mantchurica Honda)

【写真1】は5月上旬に撮影したイヌザンショウです。造成地などの森林伐採後に生長し、始めに見かける樹木の一種です。実験圃場では各野生種サンショウを標本として鉢植えするために、しばらく探し回っていたのですが、圃場の裏山に自生していました。

埼玉県では4月中旬に萌芽を開始します。【写真2】新芽はサンショウとは異なる薬臭い匂いがします。サンショウであれば萌芽後、すぐに蕾が見られますがイヌサンショウでは見られません。

8月上旬に蕾が開花します。サンショウに比べると開花時期が4ヶ月ほど遅いです。【写真3】は花です。

イヌザンショウとサンショウの見分け方ですが、棘の出方で判断することができます。イヌザンショウは棘がバラバラに出ます(互生)。山椒は葉の根本に対になって棘が出ます(対生)。【写真4・5】


■イヌザンショウ(Fagara mantchurica Honda)の夏から秋

8月中下旬に結実を始めます。【写真6】果実の表面は凹状で、サンショウに良く似ていますが、果実は少し小ぶりです。薬用(鎮咳、消炎薬)として利用されます。果実の辛味はサンショウと比べて少ないです。香りも柑橘系というよりは、薬臭い、人によっては嫌な匂いに感じます。

10月上旬から果実が赤くなり始めます。【写真7】小川町では完全に赤くなる前に、果皮が裂果して黒い種子が見えてしまいます。

10月中旬には、このように種子が見えるようになります。【写真8】サンショウはハトなどに果実を食べられてしまい、網などで保護していないと、このような状態まで木に残っていることが余りありません。イヌザンショウも野鳥などが食べるとは思いますが、来年の春まで木に残っている果実が良く見られます。

11月下旬の様子です。【写真8】12月上旬には、ほとんど落葉してしまいます。この苗木は裏山から採取して、実験圃場に定植しました。 大変枯死しやすい品種なのですが、何とか根付いてくれればと思っています。


最後に昔から野生種として知られていたイヌザンショウは、栽培品種の台木として利用されてきました。(参考文献:農業技術大系11 特産野菜 地方品種)しかし枯死しやすいのが珠に傷で、植替えなどを行うと枯死する株が多いです。きっと私の技術力不足だとは思いますが、大変気難しい生き物です。