山椒の小部屋

JAPANESE PEPPER ROOM

vol.15

山椒の害虫について②

今回ご紹介する山椒の害虫はアブラムシです。小さくて動きの少ない昆虫ですが、繁殖力が大きく増殖方法(卵胎生単為生殖・卵生有性生殖)も多彩です。アブラムシの種類・生態などに関しては「アブラムシ(おもしろ生態とかしこい防ぎ方) 谷口達雄著 農文協」などを参照させていただきました。またアブラムシの種特定は大変困難であるため、今回はアブラムシ科(Aphididae)として表記させていただきます。山椒にはニワトコフクレアブラムシ・モモアカアブラムシ・ハゼアブラムシなどが寄生するようです。


■アブラムシ科(Aphididae)

アブラムシは別名「アリマキ(蟻牧)」とも呼ばれます。アブラムシは自分を守る手段を持たないため、甘い蜜(甘露)を出して、これをアリに与える代わりに天敵を追い払って貰う事があります。【写真1・2 参照】

【写真2】を見ると、アリがアブラムシを管理する牧場のようにも見えます。

アブラムシが発生して困ることは、大きく分けて以下3点です。

ⅰ 大量に樹液を吸われ植物が弱る。

ⅱ 甘露が植物体に付着し、スス病などを発生させる。

ⅲ 樹液を吸うことでウィルス病などを媒介する。


【写真2】のような状態になると、木の側を通るだけで、一苦労です。アブラムシを駆除する為に近づいたわけでもないのに、興奮したアリにたかられて、咬まれてしまいます。皮膚の柔らかい部分や、たちの良くないアリに咬まれると、痒いと言うか痛いというか、咬まれた部分が赤く腫れ上がります。人間が近づけないのですから、アブラムシの天敵達(テントウムシ・ヒラタアブ・クサカゲロウ・アブラバチ)も近づくのに苦労すると思います。


山椒を無農薬栽培すると、アブラムシも発生しますが、それを捕食してくれる生き物も集まってきます。【写真3・4】はテントウムシの幼虫と成虫です。文献では、テントウムシは一生の間に数千頭のアブラムシを捕食すると言われています。

成虫は飛んで逃げてしまうので、幼虫を見かけると拾って、山椒の葉に乗せてやります。動かしたばかりでは、目の前にアブラムシのコロニーがあっても警戒して食べようとしませんが、翌日確認にいくと綺麗にコロニーが無くなっていたりします。


アブラムシは薬剤耐性が強くなりやすい生物です。例えば殺虫剤Aに耐性ができたアブラムシが単為生殖(成虫のコピーのようなもの)すれば、その植物に寄生するアブラムシには殺虫剤Aが効き辛くなります。アブラムシ成虫一頭から1ヶ月で1万頭増えるともいわれていますので、その畑では殺虫剤Aを使っても耐性アブラムシには効果が無くなってしまいます。更に殺虫剤Bに耐性があるオスと有性生殖を行うと、殺虫剤A・Bに耐性があるアブラムシが誕生することになります。こうして農薬が効きづらい、厄介なアブラムシが増殖していきます。


現在、農薬を使用しない無農薬栽培が注目されています。簡単に無農薬と言いますが、実践することは非常に困難です。病気や害虫が大量発生すると、広範囲に単一作物を栽培している場合、人力では駆除し切れません。その為、天敵利用やアブラムシに寄生する昆虫寄生性菌「バーティシリュウム・レカニ」などが開発されています。

いし本食品の実験圃場ではホースの水が届く範囲であれば、水流でアブラムシを地面に落としています。繁殖密度が少ない時期であれば捕殺(コロニー周辺を指でしごく)も可能です。どちらにしても大繁殖する前に対処することが大切になります。