山椒の小部屋

JAPANESE PEPPER ROOM

vol.18

山椒の害虫について③

今回ご紹介させていただくのは、アゲハチョウ(Papilionidae)です。皆さんもご存知だと思いますが、蝶の種類は大変多く、識別が大変困難です。アゲハチョウ科で山椒を食草としているのはナミアゲハ(Papilio xuthus)と呼ばれるアゲハチョウです。

良く似たものにキアゲハがいます。インターネットを調べると、羽の模様や形で見分ける事が出来るようです。が、それは専門外となりますので、他のページをご参照ください。

(参考文献 花椒栽培など)


■ナミアゲハ(Papilio xuthus)

ナミアゲハの成虫は山椒に危害を与えません。危害を与えるのは幼虫です。幼虫は卵からふ化して、蛹、成虫になるまで大量の山椒葉を食害します。以前、どこかの昆虫博で、成虫になるまでに食べる山椒葉は平均で14枚と教えてもらった事があります。

栽培に関わっていると、そんなものではないような気もするのですが、とにかく大変な量の葉を食害します。大きくなった樹なら被害は大した事はありませんが、苗木や発芽したばかりの個体では、全ての葉(酷い時には柔らかい幹まで)を食べられ、枯死してしまいます。


写真1はナミアゲハ成虫です。ミカンや山椒があるところでは、普通に見る事ができます。日本・韓国・中国で飛んでいる所を確認しました。

写真2は卵になります。成虫は一粒ずつ、食草となるミカン科の植物の葉に産みつけていきます。直径2mm位でしょうか。見つけたら、この段階でも駆除してしまいます。

写真3は一齢の幼虫です。幼虫は始めは黒くボツボツとした外見ですが、これが脱皮を繰り返し、大きくなります。脱皮の回数は5回です。

写真4が終齢(五齢)幼虫となります。

写真7が蛹の段階です。子供の頃から不思議だったのですが、どうして、芋虫が蝶になるのでしょう? 食べ物も身体の形も全く変わってしまいます。蛹の中はどうなっているかといいますと、始めは粘度の高い液体のようなものです。身体の全体を作り直しているのでしょうね。

成虫は暖かい時はいつでも飛んでいます。一年でこのサイクルを5回位、繰り返すとのことでした。越冬は蛹の形で行われます。その年の秋口に産卵された個体は寒くなるまでに、大急ぎで蛹になります


この大量に発生するナミアゲハですが、多くの天敵がいます。カマキリやアシナガバチのように直接補食する昆虫もいますが、寄生するタイプの天敵も多いようです。本来であれば、画像をお見せできると良いのですが、あまりに対象が小さいのと、成虫を見た事がないので、画像は寄生されたもののみになります。

写真2の卵に寄生する昆虫はアゲハタマゴバチ(Trichogramma papilionis)が有名です。健全な卵は黄色ですが、寄生蜂が入った卵は灰色に変色します(写真3参照)。

写真7蛹にも沢山の寄生蜂が入ります。写真8は、恐らくアオムシコバチ(Pteromalus puparum)に寄生された蛹です。中央に穴が見えます。そこから成虫が出て来たのではないしょうか。すでに中は空っぽになっています。


農薬を使用しない実験圃場では、アゲハチョウの天敵もどこからともなくやって来てくれます。昆虫の専門家からお話を聞いた事があるのですが、蝶類は自然な環境では成虫になれる確率が非常に低いとの事でした。成虫になれない蝶達は、他の生き物の命を養う(補食される)側に回るのだそうです。

そのようなお話を伺うと、捕殺するのが可哀想になりますが、こればかりはどうにもなりません。なにか良い防御方法はないでしょうか。