山椒の小部屋

JAPANESE PEPPER ROOM

vol.19

山椒に寄生する植物について①

植物には、同じ植物に寄生する集団があります。昆虫のように植物でもそのようなグループがあるとは、知識としてはありましたが、実物を見るまで実感できませんでした。寄生植物には葉緑素を持ち、自分でも光合成を行う半寄生植物と、光合成すら行わない完全寄生植物があります。

始めは山に良く自生している葛などのツタ植物も、寄生植物であると思っていたのですが、これはただの植物で、寄生(栄養の横取り)はしていないとのことでした。一般的に都会で生活されている方で、即座に寄生植物の植物名をあげられる方は余りいないと思います。例えば半寄生植物で有名なのはヤドリギ(クリスマスの飾りに使われる)です。  今回は完全寄生植物であるアメリカネナシカズラ(Cuscuta pentagona)について、ご説明させていただきます。ご説明と行っても、山椒栽培中に珍しい植物のようなものがいる、という所からのスタートですので、あまり詳しい事は分かりません。アメリカネナシカズラは山椒樹にも寄生しますが、他の植物にも寄生します。(参考 ウィキペデアなど)


■アメリカネナシカズラ(Cuscuta pentagona)

アメリカネナシカズラは様々な植物群に完全寄生する、寄生植物です(写真1参照)。栄養まで宿主から摂取するため、葉がありません。そのため葉緑素から光合成を行う必要すらないので、緑色もしていません。写真でお分かりの通り、山椒の上に麺をまき散らしたようになっています。


アメリカネナシカズラの種子が発芽した時には根もあり、普通の植物体であるようです。残念ながらその状態のアメリカネナシカズラを見た事がありません。近くに寄生できる植物があり、着生に成功すると根が無くても生きてゆく事が出来るようになるようです。  蔓は宿主への着生を成功させると、葉や茎にツタを巻き付きます。巻き付く際に吸盤のようなものを宿主表面に張り付け、身体を固定させます。実はこの吸盤が曲者で、宿主の表皮を破り、水分や栄養を横取りする器官となります。  無理矢理この吸盤を剥がすと付着部分にしっかり吸盤の後が残ります。


初めてアメリカネナシカズラ見た時は、何かのツタが絡まったのかと思い、ツタ部分のみを手で除去していました。しかし2~3週間すると、写真1の状態に戻ってしまうので、大変不思議でした。どうやらアメリカネナシカズラは、身体の至る部分に節(新しく身体を作り出す部分を含む)があり、少しでも宿主に破片が残っていると、もとのように増殖してしまうようです。


アメリカネナシカズラにも花が咲きます(写真2)。写りが悪くて申し訳ありませんが、白く小さい花が節の周辺に固まって咲きます。何回花を手で除去しても、すぐにまた花を咲かせ種子を作る、大変逞しい植物です。


先日所用で、中国の山奥(日本から現地到着まで3日かかります)に出張してきました。この際にネナシカズラ類(品種の特定は出来ませんでした)の群生を見る事ができました。山奥の交互通行ができないような細い道に、わざわざ車を止めてもらい撮影を行いました(写真3・4)。その際、一緒に出張していた同僚に、この変な生き物の生涯を説明した所、


「何の為に、この生き物は存在しているのですか?」


と、非常に哲学的な質問をされ、回答できませんでした。他の植物に完全に依存して生活し、害になりこそすれ、役に立つとはあまり思われない生き物のように感じます。  現場で中国の山椒の先生に教えていただきました。ネナシカズラは中国語で兎絲子といいます。何とこの兎絲子、種子を漢方薬(強精、強壮)の原料にしているとの事です。


「この世の中に完全に無駄な物なんかないんだよ。」  


と小さい頃に生物の本で読んだことがあります。他の植物の迷惑にしかならない(と人間は思う訳ですが)ネナシカズラが、役に立つこともあるのでした。こんなネナシカズラにすら価値を見つけ出す、人間って凄いなと思いました。