山椒の小部屋

JAPANESE PEPPER ROOM

vol.21

山椒の病気について②

以前ご紹介させていただきました「サビ病」もそうですが、植物の病名は一度聞いたら忘れられない、秀逸な命名が点在します。今回の膏薬病(Septobasidium bogoriense Patouillard)もその一つです。古い言葉なので分かりづらいかもしれませんが、膏薬とは貼り薬(湿布や絆創膏)の事です。 色々な樹木に発生しますが、もちろん山椒にも発生します。今回は膏薬病に関するご説 明をさせていただきます。

(参考文献:月刊誌グリーン・エイジ(財)日本緑化センター(1975/7 42P~)など) 


■灰色膏薬病(Septobasidium bogoriense Patouillard)

山椒に発生する膏薬病は灰色と褐色(Septobasidium tanakae (Miyabe) Boedijn & B.A. . Steinmann)の2種類があるようです。小川町では灰色膏薬病を良く見かけます。 

膏薬病は糸状菌類の一種です。糸状菌とは一般的にカビと呼ばれているグループである と考えて下さい。膏薬病は発症すると幹の表面に丸い絆創膏を貼ったような菌体を広げます(写真1 参照)。この菌体は絆創膏のように樹皮に張り付き、ペラペラの膜を剥がす こともできます(写真2参照)。小川町では山椒が、これが原因で枯死する個体は今までに見たことがありません。 


さて、この膏薬病ですが、健全な山椒樹にはなかなか着床することができません。これ は植物本来の能力として耐病性(病気にかかりにくい性質)があるためです。全ての植物には耐病性があり、地球上に存在するほとんどの菌やウィルスに関して抵抗性があります。この辺りは説明すると長くなってしまうので割愛させていただきますが、病気にかかっ た植物は、その植物の耐病性を克服した菌やウィルスが原因で発症していると考えて下さい。 


また、病原体本体だけでは植物体に侵入出来ないので、他の生物の力を借りて侵入、増 殖を行う場合があります。例えばアブラムシなどが植物を汁液を吸うと、アブラムシが保有しているウィルスを植物体に媒介し、植物体が罹病してしまいます(例:タバコモザイクウィルス病など)。人間でいうと、蚊が媒介して発病するマラリアのようなものです。 

膏薬病は単体では、なかなか樹の表面から内部に侵入できないため、カイガラムシ (Coccoidea 写真3参照)の手助けを受けることが多いようです。カイガラムシとは写真のように幹にしがみ付き、そこから樹液を吸い取るカメムシの仲間です。 

初めてカイガラムシを見ると生き物の様には思えません。事実、成虫になると、ほとんど動きません。詳しいことは別稿でお知らせします。 

カイガラムシは樹液を体内に取り込むと、食べかすを体外に放出します。この食べかを栄養源として膏薬病は生長をはじめ、樹木への侵入の足ががりとしているようです。


膏薬病の防除方法としては、菌体をワイヤーブラシなどで削り落とし、その部分に防菌作用のあるペースト状の農薬やボルドー液を塗布することが一般的です。菌の活動が低い冬場の防除が大切になります。

また発生源となるカイガラムシ防除を徹底する必要があります。カイガラムシも少なければ手でしごいて、多ければ歯ブラシなどで擦るときれいに除去できます。


今回、膏薬病のご説明をさせていただき、学生の頃、植物病理学の試験で×を貰ったことを思い出しました。内容は

「植物には一般的に耐病性がありますか?」

というものでした。世界中で毎年不作に苦しむのは植物の病気が原因であることも少なくないです。国際空港に行けば必ず植物検疫があり、外国の植物病が侵入しないように各国が神経を尖らせています。ですから植物は病気にかかり易く、積極的に保護しなければならない、そういうものだと考えたわけです。ですから堂々と

「ありません。」

と回答しました。

正解は前述の通り、植物には一般的に耐病性はあります。